Jamal Gasol&Cedar Law$『FRESH 31』|Exclusive Interview

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先日リリースされた、Jamal GasolとCedar Law$によるコラボ・プロジェクト、「FRESH 31」は、1994年作の映画「FRESH」を下敷きにして作られた。

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「FRESH」は、N.Y・ブルックリンを舞台に、ゲットーの黒人コミュニティでサバイブする、12歳の少年の姿を描いたブラック・ムービーだ。

Sean Nelson演じる、主人公の「FRESH」ことMichaelは、コカインやヘロインが蔓延するブロックで、ドラッグ・ディーラーの下っ端としてEstebanやCorkyの下で働き、鬱屈したフッドのプロジェクト(低所得者住居)から抜け出すために日々、違法な手段で金を稼いでいた。

姉がEstebanの愛人として囲われたり、同級生の女の子がギャングの撃った流れ弾で死んでしまったり、相棒だった「Chuck E」こと、Chuckieが麻薬取引のトラブルに巻き込まれて殺されるなど、“普通じゃない”状況下で、遂に、Michaelはギャングの大人たちに反旗を翻す。

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Samuel L. Jackson演じる、彼の父親、Samと興じていたチェスの戦略の様に、巧妙な駆け引きと犠牲を伴い、Michaelの汚れた復讐劇は完結する。

Michaelは、ギャングのボス連中にも物怖じせず、大胆かつ勇猛に立ち振る舞い、大人顔負けの聡明で、感情に起伏の無いクールな佇まいは、ストリート・スマートなキャラクター像として描かれている。

これまでもJamalは、ハーレムの伝説的なプラグ(売人)でありながら、高潔で堅実な男であった、Richard “Fritz” Simmonsやサウス・ブロンクスでNYPDと銃撃戦を行った、「民衆のヒーロー」とも称えられたLarry Davisといった、義賊的な行いや黒人の人権のために戦った人物をロール・モデルとしたコンセプト作品や楽曲を度々、リリースしている。

“CHUCK E”や“ESTABAN”といった、登場人物の固有名詞をタイトルにした楽曲や「Time Is Money」、「Checkmate」など、劇中における印象的な台詞も挿入され、さながら本家のサウンドトラックの様に、映画の世界と疑似的にリンクし、引き込まれる内容となっている。

It's Still A Dirty Game

また、本人が意図していたかは不明であるが、N.Y・ロチェスター出身のMC兼プロデューサーの38 Speshと共同制作した、前作の「It’s Still A Dirty Game (EP)」(2024)のカバー・アートがチェスのボードと駒になっている点は、今作の伏線であったかどうかは興味深いところだ。

Jamal Gasolについて

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Jamal Gasolは、N.Y北部、アップ・ステイトのナイアガラ・フォールズ(通称、ダーティ・ウォーターズ)を拠点に活動するMC。彼のプレイグラウンドでもある、ロックポートとナイアガラ・フォールズを結ぶ31号線にちなんで、“MR.31”の通り名でも知られている。

「PIFF!」という特徴的なアドリブは、Jamalの運営する「The PIFF Store」やインディペンデント・レーベル「PIFF Music Empire」の名称にも使用されている。

彼は幼い頃から、ブルース・ミュージックやHIP HOPを聴いて育ち、多感な時期に、G-Unit、Styles P、French Montana、MAX Bなどの影響を受け、自身も本格的にアーティストの道を志す。

Jamalは、自身のライフスタイルやストリートでの経験に基づく、リアリティを追求したラップ・スタイルを好み、天性の野太い声質を武器に、タイトなライミングを紡いでいく。2018年頃から、安定したリリースペースで、次々とハードコアな作品をドロップしてきた。

「FRESH 31」の楽曲をフル・プロデュースした、東京都出身のプロデューサー・Cedar Law$は、歌い手と聴き手の調和を保つ繊細なビート感覚で、一つの作品を通しで聴かせるプロデュース能力に長けており、今作「FRESH」でも、その手腕を遺憾なく発揮している。

彼は現在、カナダのトロントに在住し、アメリカやカナダのアーティストたちと共に音楽活動を続けている。

今回、久しぶりにビデオ通話でコンタクトを取り、カナダでの活動状況や今作にまつわるトピック、今後の動向などについて訊いてみた。

Exclusive Interview:Cedar Law$

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―直接話すのは久しぶりですね。カナダでの生活には慣れましたか?

Cedar Law$(以下、Cedar):だいぶ慣れましたね。仕事が見つからなかったり、クビになったり色々ありましたが、今は服屋で週五日働いてて、夜はレストランでも働いたりしています。一昨日、レストランにDrake来てたっす(笑)。

―今、話題のDrake(笑)。カナダに住んでみて、音楽シーン的な部分で何か気付きみたいなものってありましたか?

Cedar:こっちも日本と同じように繋がりとかコネクションが重要な気がします。パッと見は実力主義なのかな?って印象もあったんですが、そういうところの影響力は節々で凄く感じますね。厳しい部分も結構あります。そんなにウェルカムじゃない空気とか。勿論、アジア人ってのもありますけど、特にトロントではそう思いました。

―トロントに住んでる日本人は多いですか?

Cedar:僕が住んでいるところはアジア人が少ないエリアなんですが、トロントに住んでる日本人は結構多いです。でも、音楽シーンに関わってる人はあまり見かけないですね。HIP HOPシーンではないんですが、Sakiko Nagaiという日本人のDJがいて、トロントのベテランDJ、Big Jacks経由で繋がった人なんですが、その人は毎週のようにトロントの現場で引っ張りだこです。基本的に、VinylでDJをやってるんですけど、ディスコとかブギーな感じで。遊びに行くと人種関係なく毎回盛り上げていて、そういうのは自分にはできないことなので純粋に凄いなって。音楽を仕事の一部にしている人なので刺激を受けますね。日常生活でも、色々サポートしてもらっているので本当に感謝しています。是非、日本の人にも知って欲しいです。

―ここ数年、勢いのあるカナダのアーティストだと、Mike Shabbとかがいますよね。彼の出身はモントリオールでしたっけ?ケベック州の辺りはフランス系が多いって聞きますよね。

Cedar:Mike Shabb、Chung、Nicholas Cravenとかは、モントリオールのアーティストですね。モントリオールのあるケベック州は公用語がフランス語で、彼らはカナダのアーティストでも特に名前を聞くことが多いです。モントリオールに関しては、僕はまだ行ったことがないんですが、今、カナダで一番行きたい場所ですね。雰囲気もトロントとかよりもっとお洒落な感じらしくて、音楽やファッションのカルチャーが盛んみたいです。意外とトロントのアーティストは普段生活してるとあまり名前を聞かないかもしれないです。

―確かに、トロントはあまりパッと出てこないかもです。

Cedar:Raz FrescoとかDaniel Sonとかですかね。Razはトロントでのリスペクトのされ具合が半端じゃないです。カナダでは、Razの名前を凄い聞きますね。「彼は、カナダのJoey Bada$$だ」みたいな。こないだも、ダンダスっていうトロントのタイムズ・スクエア的な場所があるんですけど、そこの電光掲示板に二人の作品の広告が載っていました。

―アメリカにも行ってましたよね?

Cedar:ちょくちょく行ってます。ナイアガラ・フォールズは近いので、隣町感覚くらいで行けますし。でも、ちゃんと飛行機に乗って行ったのはデラウェアくらいですかね。

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―「Player Made」を一緒に制作した、All Hail Y.Tにも会ってましたよね?

Cedar:会いに行きました。真面目で、クールで、めっちゃカッコ良かったです。Left Laneにしろ、皆良い人でしたね。デラウェアは、トロントとは全然違う雰囲気で衝撃を受けました。

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―Left Lane Didonにも会えたんですね。

Cedar:デラウェアに彼らのスタジオがあって、そこにLeft Laneもいたので会いました。凄いピュアに音楽に向き合ってて、誰よりも音楽を楽しんでいましたね。2人だけでスタジオにいた日があったんですけど、古いレコードを引っ張り出してきて、「これを聴いてみよう!」ってクレジット見ながらワクワクしてたのが印象的でした。自分が忘れかけていた音楽の楽しみ方を思い出させてくれたような気がします。

―これまでも、海外のアーティストとやり取りをする機会は多かったと思いますが、実際に対面で、意見を交わしたりしながら制作に臨むことで得られたものはありますか?

Cedar:やっぱり、直接対面で会ったことによって、自分の言葉をもっと信用してくれるようになった気がします。今までは、同じアーティストとして肩を並べていたというよりも、飽くまで「作品をサポートしているビートメイカーの一人」って感じだったので、何か意見を言っても流されたりすることもありました。特にY.Tとかは、「Player Made」を制作している時に、リアルに20回くらいは喧嘩したので(笑)。実は、会う直前もちょっと微妙な空気だったんですよ。でも、会ってからは、僕が意見したことに対しても前向きに受け入れてくれるようになったし、会う前と比べたら、確実に信用してくれている気がします。Jamalに関しては、僕にアイデアを求めてくれたりすることも多いので、そこはネットだけの繋がりの時に比べたら大きく変化した部分ですね。会わなければ伝わらない部分も絶対にあると思っていたので、そこはこっちに来た目的でもありますし、実際に来て本当に良かったと思う部分です。

―日本人と仕事をする時との違いや難しさはあったりしますか?

Cedar:単純に言語の違いもあって、制作過程で細かいニュアンスを伝えるのが難しいところですかね。あと、日本人のアーティストの場合は、制作過程で僕の意見に耳を傾けてくれることが多いですが、海外のアーティストと仕事をする場合は、「こうしたい」という意志が強かったり、こだわりのある人も多かったりするので、意見を伝えてもそれが採用されるとは限らない場合もあります。

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―この一年ほどで、音楽制作に対するモチベーションやスタンスに大きな変化はありましたか?

Cedar:日本にいた時は、意識的ではあるんですけど実績を重視していました。その時はまだ、有名なラッパーと曲を作るのが嬉しいと思ったりしましたが、カナダに来てからは、自分の身の回りのラッパーと一緒に試行錯誤して、どれだけ結果を出せるかみたいなところがモチベーションになっています。

―色んな人との関わりの中で、その重要さに気付けたってことですかね。

Cedar:そうですね。それが一番だな、みたいな。ただ、それはカナダに来たからとはあまり関係無いかなとも思ってます。シンプルに自分のことを信頼してくれるラッパーが以前よりも増えてきたので、出来る幅が広がったってのもありますし、元々、目指していたのもそういうところだったりはするので。例えば、Alchemistみたいに、音楽だけの繋がりというより、友達くらいの距離感で一個良い作品を…というか、それくらいの深い関係性じゃないと本当に良い作品もできないかなとも思うので。その辺に関しては、凄く憧れみたいな部分もあって。知名度とか関係無く、一人のラッパーをフル・プロデュースした作品を出して、自分たちの力だけで何か結果が出せたら、それが一番嬉しいことだと思いますね。

―カナダに来てから、新たに良い関係が築けたアーティストはいますか?

Cedar:Jamalはスムーズにやり取りができてます。僕も彼に合うビートがわかるし、Jamalも渡したビートはほぼ使っているし、今のところ合計で10曲以上は作ってますが、ほとんど気に入っています。あとは、僕がカナダに来た日に、Christopher Joseってラッパーから連絡がきて。僕のことを、RU$H&Jay Niceのクレジットで知ってくれてたみたいで、次の日くらいにスタジオに行って、一緒に遊んだりしました。彼はBKRS周りとも近くて、まだ会ったことはないですが、Gritfallとかを曲で繋げてくれたりとか。Chrisは、ファイヴ・パーセンターズというのもあって、周りからかなり期待されていたり、サポートされているのはひしひし伝わりますね。まだ、20歳くらいで若いんですけど、ラップだけじゃなく、ビートメイクやDJ、エンジニアリングも一人でやってて、絵も描いたりするんですけど才能を感じますね。彼とかは、こっちに来ないと知れなかった存在だと思います。

―中でも特に仲良くなったのは誰ですか?

Cedar:特に仲が良いのは、トロントじゃないんですけど、Randall RainezGraphwizeの二人とはめっちゃ仲良いですね(笑)。Rainezは昔、僕のビートを買ってくれたんですよね。カナダに住んでるのは知ってたんですけど、どこに住んでるのかは知らなかったので、こっちに来るときに思い出してRainezにDMしたら、ロンドンってとこに住んでて。「遊びこいよ!」みたいな(笑)。トロントと同じ州で、そんなに遠くなかったので遊びに行きました。その時にGraphも居て、そこから一緒にビートを作ったり、結構遊ぶようになりましたね。制作以外にも、一緒にバスケしたり、海に行ったり、普通に友達って感じです(笑)。二人とも日本の友達にはいなかったタイプで、人間としても学ぶことも多いし、凄く良い関係性ができてますね。

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―最近受けたインスピレーションの中で、特に印象的なものは何かありましたか?

Cedar:音楽外からのインスピレーションは今はそんなにないかもしれないですね。音楽でいうと、服屋で一緒に働いてる人の中にグラフィティ・ライターがいたり、色んなカルチャーに詳しい店長がいたりするんですけど、共通してみんなめっちゃHIP HOPが好きで。彼らは少し上の世代ですけど、90’sから現行まで幅広く聴いているので、僕が聴いてこなかったような2000年代とか、メインストリームどころでもちゃんとカッコ良い曲を知ってて。日本の職場ではできないような一人ずつ曲を流して、「これは誰がプロデュースした?」みたいなクイズとか出し合ってます(笑)。その影響もあって、聴く音楽の幅はかなり広がりました。メインストリームの音楽を意識して聴いてみると、自分が活動しているようなシーンの音楽に無い、クリエイティブだなと感じる部分も沢山あります。自分がそういうビートを作るかと言われたら違うと思うんですけど、そのアイデアの部分は上手く取り込んで、自分のスタイルに落とし込めるのが面白いかなと最近は思っています。

―その感じはわかるかもしれないです。自分もメインストリームの音楽に刺激を受ける瞬間がありますね。最近、特に刺激を受けた楽曲や作品などはありましたか?

Cedar:一番は、Schoolboy Qの「Blue Lips」です。先行シングルの段階で、9incyとかEftraとか、センスの良い周りの日本の友達が「ヤバい」みたいな感じで言ってるのは聞いてましたけど、想像以上に良かったです。あの作品は、今後の自分の制作スタイルにも影響がだいぶ出てくるんじゃないかなと思っています。今回のJamalに関しては、だいぶ前に作ったビートなので、その影響は受けてないですが、今後の制作スタイルも多少変わってくるかなってくらいの影響力はありました。あれぐらい知名度のあるラッパーで、あそこまで好きにやっていいんだ、みたいな(笑)。

―だいぶ攻めてましたもんね(笑)。

Cedar:攻めた上で、しっかり評価もされてますしね。あの感じって、相当な時間をかけて制作に向き合わないと作れないじゃないですか。特に良いなと思ったのが、”THank god 4 me”って曲で、最初に品のあるサンプルっぽいビートで始まって、頭がドラムレスで、そっからProject Patの曲をサンプルしたビートに切り替わって、一瞬、Dirtyでダサカッコ良い感じになるけど、またそこから最初のサンプルに戻って、ドラムはProject Patのサンプルのパートと同じままみたいな。そのアイデアに感動しました。最初、ビートの切り替わりの部分はあんまり好きじゃなかったんですが、聴けば聴くほど良く感じてくるんですよね。その感じを真似しようと思っても僕にはできないことなので、凄くクリエイティブだなって。ジャケも含めて、カッコ良いアート的な作品だと思いました。

―それでは、アルバムの話も聞かせてください。まず、「FRESH 31」の制作はどんなきっかけで始まったんですか?

Cedar:最初は、「Kansas City SmackMan」っていう、Jamalのシリーズ物の作品があるんですが、それの四作目をやろうって話があって。ある程度ビートの候補も出てたんですけど、なんとなくプロジェクトの方向性に合わないようなビートも送っていたら、「これとこれとこれを使いたい」みたいな感じで、今回の「FRESH 31」で使うビートがピックされてました。それをこのコンセプトでやるって感じで、映画の「FRESH」についても一緒に送られてきましたね。

―ビートはCedar君が送ったストックの中から、Jamalが全部セレクトしたんですね。

Cedar:あったやつから選んでもらって、そこからビートを修正して、ドラムを組み換えたり、構成も作り直したり、それをまた送ってを繰り返して制作を進めてました。

―今作の告知をXのポストでも見かけましたが、今回は「自分らしい作品ができた」って書いていたと思うんですが、あれはどういう意味だったんですか?

Cedar:それに関しては、シンプルにJamalと自分の共通の知り合いが中心の客演だったので、そういった意味で「僕にしか作れない作品」って感じでした(笑)。あとは、ここ数年の自分が意識してきた中で、自分らしいと思える部分は確かにあって。ビートを作り始めたばかりの頃は、「自分のビートがカッコ良いのが一番」みたいな意識が強かったんですけど、最近は、別に自分のビートを主張する必要はそんなに無いな、みたいな。どれだけラッパーのパフォーマンスを引き立てることができるか、一番カッコ良く聴かせられるか、そこにこだわって、自分は二番目でいようみたいな感じで考えることも多くなりました。あまりにもビートがイキってて、ラッパーが伸び伸びできていないみたいな曲も中にはあるじゃないですか?実際、プロデューサーとしては当たり前の意識だとは思いますが。

―逆に、ラッパー自身がビートに負けちゃってることもありますしね。

Cedar:楽曲としてリリースする以上、ビートがラッパーに勝っているバランスは絶対的に正解だと思わないので。Jamalの場合は、ラップが上手い分、ビートがシンプルな方が自由にラップできるので、そういった意味でもよく言われる“引き算”は、ここ数年で凄く意識しています。音数が足りなかったら、レックした後に足せば良いですしね。出来るだけ最低限の状態で、ラッパーの実力を最大限に出して、曲として完成出来ればいいかなと思っています。その辺りは、Bohemia Lynchさんから沢山学びましたね。今回、わかりやすく凄いビートは無いので、聴く側の捉え方は別として、ここ数年で自分のやりたかったことは、今作で表現出来たと思っています。

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―そういった意識面が、“ビートメイカー”と“プロデューサー”の違いだったりもしますよね。

Cedar:そうですね。なので、自分がちゃんとプロデューサーとして作品を出せたのは、RLXとの「CIELO」と今回の「FRESH 31」くらいですかね。「Player Made」は、Y.Tが実質プロデューサーだったので。それ以外は、結果的に“ビートメイカー”としての関わり方になってしまっていた気がします。

―客演には、All Hail Y.T、Sh4mel、Skyzoo、Aquil Ali、Rico Tellem、Vic Spencer、Toney Boiって感じだったと思いますが、メンツはどのようにして決まったんですか?

Cedar:僕が提案したのはY.Tだけですね。でも、基本的に共通の繋がりです。SH4MELは、最近一緒に作品も出したし、Vicも過去に7インチを出したし、Toney Boiはトロントで何回か会って、Player Kとの作品のエンジニアリングも協力してくれましたし。Ricoに関しては、Jamalの従兄弟です。客演は基本的に、ほぼラッパーの意見を聞いてから、それに対して自分の意見を伝えるようにしています。作品によっては必要無い時もありますしね。

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―制作期間中は、ほとんど日本からのやり取りだったと思いますが、カナダに行ってから、Jamalと制作に関するコミュニケーションはあったんですか?

Cedar:Jamalのレック自体は、ほぼ一年前くらいには終わってて。あとは客演待ちで、最後がSkyzooって感じでした。カナダに来てからは、ナイアガラに滝を見に行ったタイミングでJamalに連絡して、一緒に食事をしながら作品の話をしたりしました。それ以降は、細かくテキストでやり取りしていました。

―SkyzooがCedar君のビートで蹴ってるのはテンション上がりましたね。“ALL I KNOW”は、ビートもブルックリン・テイストな雰囲気があって、正にSkyzooにピッタリな曲だなって思いました。

Cedar:あの曲のビートなんですけど、親父がたまに僕の部屋におすすめなのかレコードを置いていくんですよ。それを一応は聴くんですけど、ネタとしては使ったり、使わなかったり。でも、普段からレコードは端から端まで聴くようにしてて、今回のネタは普段はあまり使わないアーティストの曲だったんですが、たまたまワンフレーズで耳に残る部分があって、ドラムもばっちりハマったんで採用したって感じですね。

―映画の「FRESH」はブルックリンが舞台で、Skyzooもブルックリンのクラウン・ハイツって地区の出身なので、その辺りの辻褄が合う感じも個人的には食らいました。ちなみに、今作でCedar君が個人的に気に入っている曲は何ですか?

Cedar:割と全部好きなんですが、“ALL I KNOW”と“EVERYDAY”ですかね。最近はインパクトがある曲よりも、ずっと聴ける曲を作れることを重視してて。そういう意味だと、“EVERYDAY”とか何回聴いても聴きやすいし、良い曲だなと思ってます。

―自分も“EVERYDAY”が一番好きですね。上ネタがちょっと哀愁を帯びてて、急ぎ足でステップを踏むようにドラムが敷き詰められてて。映画の雰囲気にもマッチしてますよね。

Cedar:90’sの雰囲気もあるし、あの曲には良い意味での”ダサさ”もあると思ってて。そこが共感しやすいというか、タイトルからも日常を感じる曲だと思うんですよ。全員、カッコつけすぎてないじゃないですか。なんか、「ずっと聴ける」みたいな感覚があって。あとは、この作品で一番インパクトがあるのは、“ALL I KNOW”だと思ってます。マイクリレー自体は凄く好きだし、三人以上がラップしてる曲って、実はあんまりやったことがないですし。全員がちゃんと乗れるようなビートも用意できたし、Skyzooもベテランならではの余裕が見えた気がしますね。フロウとかも置きにいってない感じで流石だなと思いました。もっとわかりやすいフロウもできたと思うんですが、あえてそうしてきた感じだったので、本気度が伝わって嬉しかったです。JamalとSH4MELのバースも凄く良くて、バッチリ締まってましたし。ビートも個人的には、あの中だと特に気に入っています。

―中毒性のあるフックが頭に残る、“SELF-DISCIPLINE”に関しては、ビート然り、フロウ然り、ドラムの変態的なリズムの取り方が個人的に好みでした(笑)。

Cedar:あの曲は、ちょっとキャッチーな感じもありますよね。Jamalが普段あんまりやらなそうと言いますか。彼はブーンバップっぽい、ハッキリと区切られたドラムのビートを選ぶことが多いイメージなのですが、その曲はグルーヴ感がある配置のドラムなので、いつもとちょっと違うフロウで乗せてますよね。曲自体の完成度が高いかと言われたらわからないですが、結果的に実験的な要素もあって良かったかなとは思っています。故・Young Dolphが同じネタを使ってる曲があったみたいで、それもあって、Jamalもあえてあのビートを選んだみたいです。

―あの異質で変則な感じも、HIP HOPらしさが出てて最高です(笑)。ちなみに、“Forever31”は、「More True Stories」に入ってませんでしたっけ?

Cedar:あれは最初、「More True Stories」のボーナス・トラックとして、SoundCloudだけで出してたんですが、その後に僕がストリーミングでシングル配信しました。でも、Jamalに「FRESH 31」に入れてもいいんじゃないかって提案して。エンディングとしても合ってるし、単曲で出した割に意外と再生されていたのもあって、もっと聴かれるべきだなと思い、あえてこの形で出し直しました。

―このビートが一番、Cedar君らしいビートではありますよね。今作のビート・メイキング全体を通して、上手くいった部分はありますか?

Cedar:ドラムの抜きとか、FXとか、アレンジを細かくできたことですかね。自分のビートは基本的にワンループで展開があるわけではないので、そこにちょっと変化を加えて、一曲を飽きさせずに聴かせられるようにしたり。その辺は、プロデューサーとして最低限やるべきところではあるんですけど、海外のアーティストと仕事をしていると、知らない間にリリースされちゃったりすることもあるので、意外とやり辛いこともあるんですよ。なので、去年くらいからボーカルとかもしっかり返してもらってアレンジできるようになったり、そこに理解がないアーティストには、先にアレンジしてからビートを送ったりとか、色々と考えながらやってますね。

―常に、トライ・アンド・エラーの精神ですね。最後に、今後の動きとか、こうなりたいビジョンなどあれば、是非聞かせてください。

Cedar:まずは、「FRESH 31」のフィジカルのリリースに向けて、デラックス版を作っています。あとは、引き続きこれまで仕事してきたアーティストや新しく繋がったアーティストとのプロジェクトが控えてますね。日本のアーティストのプロデュースもしています。今後は、もっと自分主体で作品を作っていきたいです。エンジニアリングも自分で出来るようにしたり、ビデオの撮影とか、アートワークも自分で出来たらいいですよね。自分の中で、「何がクールか」みたいなイメージは常にあるので、アーティストとして、自分の理想に近づけるように出来ることを増やしていきたいです。

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あとは、僕らは先人たちの音楽を聴いて影響を受けているので、彼らが持つアイデア、クオリティの音楽を作れるようになるのは最低限として、今度は自分らが新しいサウンドを生み出して、次の世代とかにも影響を与えられるような存在になれたらいいなと思っています。英語も勉強して、みんなが何について話しているかちゃんと理解しないといけないですしね。そして、生まれた地域も違って、キャリアも浅い自分を信頼して協力してくれたアーティストたちがいたから、自分は今のような活動ができて本当に感謝しているので、一人でも多く成功できるようにサポートして、いつか皆を日本に呼びたいですね。

Text&Interviewed by.HEWY

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