BASH da RIPPA&DJ FRIP a.k.a. BeatLab 『DYING BREED』|Exclusive Interview

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BASH da RIPPA&DJ FRIP a.k.a. BeatLabの両名義で4月にリリースした、13曲入りのコラボ・アルバム、「Dying Breed」。更に、未発表曲8曲加えて、5月にはデラックス盤もリリース。現在、国内のシーンで注目が集まっているエリアの一つである、千葉出身のラッパー、BASH da RIPPAに、アルバムのことは勿論、これまでのキャリアの回想やHIP HOPに向き合う姿勢、千葉のHIP HOPシーンへの想い、パーソナルな部分についてなど、色々と話を訊いてみた。The LOXやDave Eastといった、「現行のN.Yスタイル」のHIP HOPからの影響を感じさせる、彼の知られざるバックグラウンドを掘り下げている。

Exclusive Interview:BASH da RIPPA

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―まずは自己紹介、出身地、レップしているエリアを教えてください。

BASH da RIPPA(以下、BASH):BASH da RIPPAです。出身は千葉県松戸市。Upside CB、MAD-CITY。生まれも育ちも松戸です。

―自身が所属している「MAYHEM MUSIC」について、どんなチームか教えてもらえますか?

BASH:C.W.C(Castle.West.Crew)とDJ MARKIE、BASH da RIPPAで構成されたクルーです。クルー…と言うか、レーベル?と言うか。とにかく、自分らの“好き”をとことんまで突き詰める集団かなぁとは思います。向いてるベクトルが一緒なんで、自然と統一感が出てるのかなと思ってます。

―では、BASH君がHIP HOPに出会ったきっかけを教えてもらえますか?

BASH:子供の時から洋画が好きで結構観てて。その時ちょうど「BAD BOYS」とか、Chris Tuckerが出てた「ラッシュアワー」とか、ああいう黒人俳優が活躍してる映画で、単純に「黒人カッコいいな」ってなってたタイミングで、兄貴と一緒に夜中起きてて当時やってた…何の番組かはちょっと忘れたんですけど、洋楽チャートの番組でミュージック・ビデオが流れてて。

―MTVとか?

BASH:多分、MTVとかだったと思うんですが、それに当時、LudacrisとかNellyとか、その辺が全盛期だった時に観てて、「超カッケー」ってなって。そこからHIP HOPが好きになりました。その頃くらいにちょうど、兄貴は長男がUS HIP HOPを聴いてて、次男がキングギドラとかNITRO(MICROPHONE UNDERGROUND)を聴いてて、そんな形でHIP HOPにハマっていきましたね。

―邦、洋ハイブリッドな入りだったんですね。

BASH:そうっすね。そもそも、HIP HOPを聴き出す前は、LINKIN PARKとかSlipknotとか洋楽を聴いてて。単純に英語の歌詞が凄い新鮮に感じてて。

―HIP HOPは兄弟の影響もあったけど、音楽自体は自発的に聴いていたわけですね。

BASH:HIP HOPも好きになってからは自発的でした。兄貴の部屋に侵入して、CDを勝手に持っていって聴いたりもしていました。あとは、小学5年生くらいの時にCD屋さんに入り浸って、金も無くてCDも買えなかったんで、試聴コーナーで、平気で一人で1時間とか2時間とか新譜を聴き漁ったり(笑)。店の人からしたらスゲー迷惑だったと思いますけどね。

―わかります(笑)。自分も若い頃そんな感じでした。それを経て、実際にラップを始めることになったきっかけを教えてもらえますか?

BASH:元々、俺はスケーターでスケボーをやってて。隣町の一個上のスケーターから、S-Otuってやつとその周りの仲間を紹介されて。最初はスケーターとして紹介されたんですよ。それが、S-OtuがちょうどDJを始めだした頃で。「俺、今度PARTYやるから、お前ラップしろよ」って誘われて、「いいよ」って感じで。

―ノリで(笑)?

BASH:ノリっすね。それで、そいつと一緒にディスクユニオンに行って、バイナルのインストを選びました。確か、Madlibの曲かなんかだった気がします。そのインストで初めてラップの歌詞を書いて、渋谷のリズムカフェってBARで披露しました。それが人生で初めてマイクを持って、人前でラップをした経験でしたね。

―その時のことは鮮明に覚えてますか?

BASH:覚えてますけど、友達しかいなかったんで身内に一発芸見せてるくらいの感覚でした(笑)。皆、笑わないでちゃんと聴いてくれてましたけどね。

―その時はグループとかは組んでたんですか?

BASH:いや、その時はソロっすね。S-OtuがバックDJで、俺は一人でラップしました。

―人生初のライブはソロだったんですね。

BASH:そうっす。その後、S-Otuと何人かで「RED-OUT CREW」ってグループを地元で組んで。最初はおふざけでディスっぽいノリの曲を皆で作って。その時は別に継続するつもりは無かったんですが、そのまま流れでアルバム作ろうって感じになって…それが16の時っすね。

―なるほど。16歳からラップを始めるのは当時としては早熟でしたよね。では、BASH君がラッパーとして活動する上で、特に影響されたアーティストは誰かいますか?

BASH:ラップを始めた現在と昔では影響されたアーティストが違いますが、今は、自分も音楽をやってきた上でこういうアーティストになりたいって思うのは、The LOXのジェイダ(JADAKISS)ですかね。

―THE LOX好きを公言してますもんね。

BASH:元々、LOXは俺の中では一番というか、そうゆう見方では無かったんですけど、年齢を重ねて、音楽を色々とやっていく内に、LOXのヤバさに気付いたと言うか。

―それは、ラップスキルは勿論、ファッションなり、フッドでの振る舞いや生き方なりを含めてですよね?

BASH:あとは、ラッパーたちからのプロップスだったり。

―BASH君の中で、「これぞ、HIP HOP」と思ってることは何かありますか?

BASH:難しい質問っすね…ある程度集約すると、今の日本の状況は、HIP HOPってより、RAPが流行ってるって感じがしてて、ファッション感覚というか。やっぱり、HIP HOPってカルチャーじゃないですか?ラップが格好良くても、ファッションがダサかったら「微妙だな~」って思っちゃうし、逆にファッションが格好良くても、ラップがダサかったらそれもそれで微妙ですし。あとは、通るべきところを知ってると知らないじゃだいぶ違ってきますし。

―その辺りは、自身のリリックなり、普段からの発言で一貫したメッセージとして伝えているところですよね。

BASH:そうっすね。意識はしています。

―アルバムの話をお聞きしたいんですが、今回、「Dying Breed」を出すことになった背景を教えてください。

BASH:そもそも、アルバムを出すつもりでやり出したわけではなくて。色々と巡り合わせもあって、DJ FRIP君と出会って。とりあえず一曲やりますか、みたいな感じでFRIP君のスタジオに呼んでもらったんですよね。

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―一番最初に作った曲は何だったんですか?

BASH:実を言うと、“Intro”ですね。あれは元々、フック無しの2バースの曲だったんですよ。ビートは変わっちゃったんですけど、フックっぽいブリッジとビートは後から付け足しました。

―なるほど。

BASH:アルバムを制作している過程で、よくよく考えたら、このリリックって完全に「Dying Breed」の全貌がまとめられてる歌詞だなってことに気付いて。あとは、一番最初に(二人で)作った曲だからってのもあって、イントロに持ってきました。この曲のバースを録り終えた瞬間に、FRIP君から「何か作品一緒に作ろっか」って言ってもらえて。そこから、まずはEPを作ろうって話になりまして、月に大体、2曲くらいずつ作ってました。

―それが徐々に溜まっていったって感じですか?

BASH:そうです。でも、途中で色々な人からのアドバイスで、俺みたいなタイプのアーティストは、まずはアルバムを出して、アーティスト性をしっかりと世の中に示してからやってくのが良いんじゃないか、って言ってもらって。それをジャパマゲのJAGGLA君とか、アニィ(JuniorMOBB)とか、色々なアーティストの方にアドバイスをもらいました。そこから、EP用に作っていた曲を一旦全部バラして、一からまた作り直しました。そのきっかけとなった曲が“Dying Breed”で。あの曲をちょうど作ってたタイミングでその話になったって感じです。

―なるほど。では、今作をダブルネームで一緒にリリースすることになった、FRIP君との出会いはどんな感じだったんですか?

BASH:地元で仲が良い、BATTってDJがいて、そいつがそもそもFRIP君と仲が良くて。以前から紹介したいとは言われてたんですが、同時期くらいに、たまたま後輩の車に乗ってる時、凄い格好良い曲が流れてて、「これ誰?」ってなったのが、たまたまFRIP君のビートで。SMOKE OGの「YSOG」って曲なんですけど。その後、DJ Ma-darってやつがやってる地元の「BUGGATI」ってイベントで、ジャパニーズマゲニーズがSPゲストで来てた時に前座でライブをやりまして。そのライブ後に速攻で話しかけに来てくれて。同じタイミングくらいで、お互いが認知してたみたいで、そこで連絡先を交換してスタジオ行く約束をして、そこから全てが始まったって感じです。それが確か、2021年の頭くらいでしたかね。

―実際に制作をやってみて、FRIP君とフィーリングが合致したって感じですか?

BASH:FRIP君って全てが感覚的な人間なんですよ。ビートも感覚で作ってるし、音楽も感覚で聴いてて、俺とは音楽への向き合い方が全く違うので、逆にそれが…

―新鮮だった、みたいな?

BASH:そうっすね。新鮮だったし、FRIP君の俺のラップに対する絶対的な信頼があった上で、「こんなビートでもできるでしょ?」みたいな無茶振りもあったり。俺も「やってやるよ」って気持ちで制作に臨んでたんで、その遣り取りが結構面白かったですね。

―“Intro”でも、「俺はBass,Kick,Snareありゃ何でもいいぜ」ってラップしてますもんね。あれは、音楽性へのこだわり云々の話じゃなくて、「どんなタイプのビートでもスピットできるぜ」って自信の現れですよね?

BASH:そうですね。

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―今回、初めてリリースしたアルバム作品を「Dying Breed」というタイトルにしたのには、どんな意味やコンセプトを込めたんですか?

BASH:ダイイング・ブリードって「絶滅危惧種」って意味だけど、人から「絶滅危惧種だね」って言われることもちょこちょこあったり、俺の好きな海外のアーティストが「Last Of A Dying Breed」ってタイトルを結構使ってて。そもそも、その言葉自体もなんとなく好きで。

一同:響きもカッコいいし(笑)。

BASH:あとは、日本の「HIP HOP氷河期」って言われてた時代を経験したってのもありますし、そこから辞めずに生き残ってきた自負もあります。デラックス盤の方のジャケットは、それを表現してるんですよ。氷河期を迎えて荒廃した街の中に俺が一人で立ってるみたいな。

―BASH君は、現在に至るまでの間にも活動を続けていく中で色々とあったと思いますけど、グループ離散とかも含めて。

BASH:二度経験してますからね(笑)。

―そこで、「最後まで残ったぞ」って意味も入ってるのかもしれませんね。

BASH:それは勿論あります。

―今作で、2000年代のUS HIP HOPを意識している部分は、特に自身と世代の近いリスナーには届いたかと思いますが、あえて同じサンプルから再構築しようと思ったのには、どういった狙いがあったのか教えてください。

BASH:タイトルとかもそうですけど、やっぱり俺がガキの頃にタイムリーに聴いて育って、俺を構成してるHIP HOPって、2000年初期から中期辺りなので、そこを現在の自分の視点で再構築して歌いたかったって狙いはありました。そしたら、たまたま世の中もY2Kブームになって。アルバム制作前の時点ではそのブームになりかけくらいの段階で、ドリルとかの人たちがまんまサンプリングし始めた頃っすね。単純にアルバムの制作期間が思ったより時間がかかっちゃって今になったって感じです。もう一つの狙いは、自分らに近い世代とか、それよりも上の世代の人たちが曲を聴いたら、「あのネタじゃん」ってなるとは思うんですけど、ビート自体はちょっと新しい、みたいな。ドリルとかトラップに焼き直してみたり、ブーンバップでもチキチキさせてみたり。若い子たちが聴いてもフレッシュだし、上の世代の人たちが聴いたら「懐かしい」ってなるみたいな。自分が築いてきたナレッジの共有と、俺がカッケーなって思ったHIP HOPに、興味や共感を持ってもらいたいという部分と、奥に引っ込んじゃった人たちにも新しいモノを毛嫌いするんじゃなくて、今のHIP HOPの形として受け取って欲しい、って意図がありました。

―アルバム全体の構成について聞きたいんですが、前半は割とわかりやすく、所謂、ブーンバップ系統の硬派なビートの曲で固まっていて、“PSA(Interlude)”を境にトラップ、ドリルゾーンに流れが変わっていきますよね。そっからバンガー系、後半にかけて緩めにレイドバックしていく感じですが、この辺りの構成にも何か意図はありましたか?

BASH:前半は、“ザ・BASH da RIPPA”って部分を見せたかったすね。口の悪い曲が前半に多いと思います(笑)。芸名は、“Jack The Ripper”(切り裂きジャック)から取ってて、BASHはバッシングからも来てます。口が悪いってのと、RIPPAは“切り裂く”って意味と“ペラを回す”意味もあって。前半は自分らしさの表現、自己開示ですね。“PSA(Interlude)”で一回流れをスイッチして、現行の進化したBASH da RIPPAを見せたかったっす。「Dying Breed」は、ただの生き残りじゃなく、進化をし続けて今後も生き残る種族って意味も持たせてます。

―後半はどうですか?

BASH:後半は…今回のアルバムでは、聴いてもらえたらわかると思うんですが、自分の人間味の部分はほとんど出してなくて。でも、後半の数曲だけ人間味のある曲を作りました。全部、そこに持ってくためのプロセスになってると言いますか。

―そこもある意味では、今までの自分の曲では出してこなかった“BASH da RIPPA”を出したかったのかなというか。自分の中では、それも新たな試み的な部分でもあったんですかね。

BASH:そうですね。

―個人的に、今回のアルバムで思い入れの深い曲はありますか?

BASH:三曲あります。まず、“Dying Breed”。単純にアルバムのタイトル曲でもあるし、自分がアルバムを作るきっかけになった曲でもあるし、細かいことを説明すると色々あるんですけど、俺っぽさが全開に出てて、言いたいことが言えたってのもあります。もう一曲は、“Life Is…”。俺が音楽に本腰を入れてやる気になったきっかけに、少なからずeydenの存在があって。あいつがラップスタアで優勝したことで千葉も盛り上がって、「俺も負けてらんねぇな」ってなりました。これは、eydenが優勝する前に出来た曲なんですけど、そもそもBeatStarsのレンタルビートで作って。勿体ないので、FRIP君に相談してオリトラで作り直しました。もう一曲が“Lucid Dream”ですね。あれは本当に俺の思ってることの全てが詰まってます。仲間とか、音楽に対することとか、自分自身の今後の目標とか。タイトルは、直訳すると“明晰夢”なんですが、本来の意味をちょっと捻って、「俺は起きながらにして夢を見てる」ってイメージです。

―eyden君の名前が出てきたので少し掘り下げたいのですが、eyden君のアルバムに入っている“Still Breeze”という曲でも、「夢見せるつもりが見せられたぜ」ってBASH君のラインがあると思うんですが、彼に対しての“想い”みたいなものって話してもらえますか?

BASH:沢山ありますね。eydenは、高校生の頃から俺のことをクラブで見ててくれてたみたいで。ひょんなきっかけから、YUTO君っていう千葉の先輩に紹介したいって言われて。バーカンでその話をしていた時に、ちょうど98jamsのライブが始まったんですよ。その時に、どれがeydenか一瞬でわかったというか。

―同じ“ニオイ”を嗅ぎ付けたんですかね?

BASH:そんな感じです。あの段階からあいつはもうスタイルが完成されてて。本当にあのまま変わってないですね。

―そして、「そのまま売れてった」って感じですね。

BASH:本当にそんな感じです。ラップスタアの時の話になるんですけど、eydenは応募締め切りの当日まで忘れてて(笑)。俺が締め切り2~3時間前くらいに連絡したら、「忘れてたっす」って(爆笑)。それでサクッと作って送った曲で応募して、優勝したって感じですね。

―BASH君も同じ回のラップスタアに応募してたと思うんですけど、その時に応募したリリックを“Talk My S**t”のバースでそのまま使ってましたよね?

BASH:ですね。そもそも、その俺のバースの一部をeydenがラップスタアの審査途中のパフォーマンスで使ってくれて。「俺と俺の兄弟を知らねぇ奴が居なくなるまで」ってラインなんですけど、元のリリックをオマージュして使ってくれました。

―話をアルバムに戻します。今作のFRIP君のビートで、特に気に入ってるものはありますか?

BASH:全部ですね。“About Us”以外は全部自分でサンプリング・ソースも選んで。あの曲だけは、FRIP君が曲の構成から曲の内容とかまで全部主導してくれたって感じです。他はスタジオで俺が流した2000年代の曲から、FRIP君が気に入ったやつを採用してったって流れでした。でも、あの人へそ曲がりなんで(笑)。俺がこういう雰囲気にしたいって言っても、最終的に全然関係ないところに辿り着くんすよ。でも、“Lucid Dream”に関しては、唯一俺の意見が色々反映された曲で、それ以外はほぼ全てお任せでした。

―客演陣も色々なアーティスがいて、豪華絢爛なメンツになっていたと思いますが、フィーチャリング・アーティストはどんな基準で選んだんですか?

BASH:「Dying Breed」になぞって、今も生き残ってる人、今後も生き残るだろうなって人、あとはちゃんとHIP HOPに対してリスペクトを持ってる人、って感じです。データのみの遣り取りじゃなくて、生身の繋がりのある人間ってところにもこだわりました。

―BASH君がリリックを書く上で、特に意識してることとかはありますか?

BASH:えーっと…聴き取りやすさは考えてますかね。

―リリックが、ってことですよね?

BASH:そうです。ラップって、メッセージを人に伝えたいからやってる部分はあると思ってて、英語を多用したりはするんですが、ちゃんと聴き取りやすく歌うってのは意識して作ってます。あとは、自分は韻が固いラッパーだって思ってるんで、「次にこう踏んでくるか」っていう面白さは追及してますね。そこは多分、ZEEBRAさんの影響が強いかもしれないです。

―今、ライミングの話が出たのであえて聞きますが、少し前にネット上でも韻踏む・踏まない議論みたいなのがあったと思うんですが、ずばり、BASH da RIPPAにとっての「ライミング」とは?

BASH:「RAP」そのものです。

―RAPそのものですか。

BASH:韻踏む、踏まない論に関しては、色んな形があっていいとは思うんですが、なんだろ…自分的には、醤油ラーメンに醤油が入ってないみたいな(笑)。確かに、日本語ラップについては、日本語の中でそもそも韻を踏む文化があまりないから、そこに関してはそういう主張もわかるんですけど。あくまで俺は、「アフリカン・アメリカンの人たちのカルチャーを借りてやってる」っていう意識があるので、そこはリスペクトも込めて、向こうのやり方に則ってやりたいって信念を持ってます。

―BASH君は、割とライミングで評価されるタイプのラッパーだと思うんですけど、フロウについてはどうですか?特に、最近は色々と挑戦してる感じも読み取れたんですが。

BASH:実は、フロウに関しては全然意識しないで書いてます。

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―全く?

BASH:一切、意識してないですね。俺のリリックの書き方が、韻を先にバーッて書いてからパズルみたいにして歌うので、その韻と韻の間を意味が繋がるように書いてるだけっすね。こういうフロウでやろうとか一切考えたことがないです。ZEEBRAさんのラジオに出させてもらった時にも聞かれたんですが、「俺は俺のままです」って答えました。

―BASH君のラップは、ライミングに全ウエイトを置いてる感じなんですね。では、アルバムの曲で、自分がパンチラインだなって思うリリックを教えてください。

BASH:まず、“Dying Breed”の「絶滅危惧種に瀕した定番」ですね。これは人に言われて、「確かに」ってなったラインです。特にパンチラインとして意識して書いたわけではなかったんですが、あとから沸々、ジワジワと。まぁ、良いこと言えたかな的な(笑)。

―定番が絶滅危惧種になったって、ストレートなメッセージでもあり、時流的な背景もサラッと描けている気がしますしね。

BASH:あとは、韻の完成度も含めて、“Talk My S**t”の「ゼッテー生き抜く 絶滅危惧種」。また絶滅危惧種なんですけどね(笑)。

―刷り込みってやつですね(笑)。

BASH:あと、これはDisry君とやってる曲で、Disry君の過去の曲のパンチラインをサンプリングした上で、俺が返してるリリックなんですけど、「I came from 正統派 Culture知れば選ばない軽量化」です。“Heavy”と軽量化が対の意味で掛かってたりもするんですが、実は「Culture知れば選ばない軽量化」は、俺が好きなDisry君の“B.B.B”って曲の一節なんですよね。

―そうだったんですね。“Heavytage”は、二人とも鋭いメタファーやB-Boyらしいダブルミーニング、テクニカルなライムスキームで抜け目なく刺しに行ってて、尚且つ、掛け合いもバチバチの超アグレッシブで面白い曲でした。

BASH:あれは完全に二人のスキル勝負の一曲に仕上がりました。パンチラインに関しては、すぐに思い付くのはその辺りですね。逆にどのラインが一番好きでした?

―「Boom bap 軟弱は瞬殺」です(笑)。

BASH:ちなみに、FRIP君もそこが一番好きって言ってましたね。

―Boom bapって、喩えるなら音楽的に一番殺傷能力の高そうなHIP HOPのサブジェクトだと思ってて(笑)、それを一言で上手く言い表わしてるなって。キックとかスネアとか鈍器かってくらい硬いのとかありますし(笑)。あとは単純にバースの疾走感と語感の良さが耳に残りました。その後に続く、「今この瞬間 屍越える Yellow nubuck」まで抜かりないですしね。

BASH:意外と“Ice Pick”が色んな人から反響があったんですよね。98jamsのメンバーたちからも、「“Ice Pick”が一番良かった」って言われて。

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―BASH君らしさが全面に出てるからですかね。ちょっと質問の角度が変わるんですが、ラッパーとして、ラップの面以外で大事にしてることって何かありますか?

BASH:ラッパーとしてと言うか…人として、「TRUST(信頼)、RESPECT(尊敬)、LOYALTY(忠誠)、LOVE(愛)」って言葉を信条にしてます。自分が大事に想ってる人間に対して、絶対に一個も欠かしてはいけない部分だと思うんですよね。なので、常に忘れないようにTattooも彫りました。その四つを欠かしてはいけないってことは、MAYHEMのアニィ(JuniorMOBB)から教わりましたね。彼がその言葉を一番体現してる人間だと思ってます。

―最近の地元、千葉・松戸周辺のシーンについてはどう思ってますか?

BASH:先輩方が最近また活発に動いていて、影響を受けた人たちが再始動するのは凄くアツいことですよね。若い子たちもどんどん出てきて、昔みたいなまとまり方ではないですが、色んなところから色んなタイプのアーティストが出てきてること自体は良い傾向だと思います。

―それこそ、昔は常磐線沿いにTEAM 44 BLOX、千葉市の方ではKINGDOM RECORDSとか、確固たるシーンを千葉に作ってきた先輩たちがいましたけど、今は群雄割拠というか色んなカラーが入り乱れてますよね。

BASH:平成初期生まれの人たちがちょうどその間に挟まれてて。90年生まれから96年生まれくらいまでの人間は、先輩たちのノリも若い子たちのノリもわかるんで、そういう意味でも俺らの世代は重要になってくる気がしますね。先人のことを後輩たちに伝えていくのも俺らの役目だし、逆に若い子たちの考えやHIP HOPに対する姿勢を先輩たちに伝えていくのも、俺らの役目なんだと思います。

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―それはライブのMCとかでも、BASH君はずっと一貫して言い続けてる部分ですよね。

BASH:じゃないと、いつまで経っても変わらないじゃないですか?アングラとかオーバーグラウンドとか。「若いやつはダメだとか、オッサンたちは老害だ」とか。そういうもんじゃないと思うんすよ。ラッパーである以上、同じ土俵に立ってるわけですし。

―今の色々なスタイルがある千葉のシーンを肯定的に捉えてるってことですよね。

BASH:それは全然良いことだと思います。

―後半に差し掛かってきたので、個人的に聞きたかったことを質問させてください。BASH君が2000年代産のHIP HOPで、当時、個人的に衝撃を受けた作品を三枚選ぶとしたら?

BASH:ん~それぞれのアーティスト、地域ごとにあるんでなんとも言えないっすけど…アルケミ(THE ALCHEMIST)のファースト・アルバムと、MOBB DEEPの「Blood Money」、Styles Pの「Time Is Money」ですかね。挙げたら本当にキリがないです。

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―間違いないです(笑)。では、今まで楽曲制作をやったことがないアーティストで、今後、一緒に曲を作ってみたいと思うアーティストを教えてください。

BASH:全然知り合いじゃない人もいるんですが、最近チェックしてて格好良いなと思ってるのが、若手だと、Yvngboi P君、Ron Braga、YTG君。年が近い人でやってみたい人も沢山いますけど、Jin Doggさん、C.O.S.A.さん、IO君。先輩だと44 BLOX、ZEEBRAさんとかNITROの人たちとか。自分が影響を受けた人とは全員やってみたいです。

―ファッションのこだわりについても少しお聞きしたいんですけど、自身のリリックでも随所にヤンキースのフィッテド、ティンバーランドに対する言及が多かったり、普段からファッションに対しての姿勢も所謂、オーセンティックで、尚且つ向こうのストリートでのトレンドも細部に取り入れていますよね。

BASH:ド定番のアイテムをサイジングとかで、その時代の感じに合わせて着てるみたいなイメージです。着る服とかブランド自体は昔からそんなに変わってないです。

―そのド定番アイテムの中でも、特に外せないブランドってありますか?

BASH:Champion、Carhartt、Poloはずっと変わらず好きですね。その辺にちょこちょこ今っぽいのも混ぜるし、勿論、いつもサポートしてもらってる、Chillin’Ballin’も大好きです。自分が見てきた角度で、ありそうでないモノをIRVINの方で自分らで作ってるって感じですかね。

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―その自身も携わっているアパレルブランド、「IRVIN」の話も聞かせてください。

BASH:スローガンが「カルチャー&フリーダム」。色々と複雑な意味はあるんですが、“4”って数字がキーになってて。「カルチャーの定番、オーセンティックなモノに則った上で、自由な発想で新しい形を提案する」っていうコンセプトでやってますね。今後も色々なアイテムを展開していくつもりです。

―最後になりますが、今回、このタイミングで初めてアルバムを出したことを踏まえて、今後のビジョンについては、BASH君的にどんな考えを持っていますか?

BASH:俺は年齢で言ったら若くはないんで、選手生命はそんなに長くはないのかなとは思っていたり。でも、50歳近くになっても、バチバチに現行のラップをしてるJim Jonesとかがいるんで、そこはなんとも言えないっすけど(笑)。若い子たちのサポートもやりつつ、俺は俺のままで第一線で戦えてるって状態が理想的ですね。あとは、俺のやってる音楽の性質上、どちらかと言えばアングラに見られがちなんですけど、そこには留まらず、逆にアンダーグラウンド趣向の音楽を表舞台に引っ張り上げられる存在になれたら良いなとは思っています。

Text&Interviewed by.HEWY

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